呉釗燮外交部長(=外務大臣)が8日に米日刊紙「ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)」のコラムニスト、Nicholas Kristof氏の取材に応じた内容が、「When Democracy Is a Threat」(民主主義が脅威となるとき)というタイトルで10日、同紙に掲載された。同コラムでは台湾の選挙に介入する中国の動きとその意図を詳しく探っており、中国の権威主義が世界の民主主義陣営にもたらす脅威を国際社会が理解するのを助けるものとなっている。
呉外交部長は、台湾が1996年に初めて総統直接選挙を行った時から中国は選挙への介入を行ってきたが今回は手法がいっそう多様化していると指摘、特に従来型の軍事的脅威や経済的な威圧に加え、今回の総統選挙を「戦争か平和か」、「衰退か繁栄か」の選択へとイメージ付けて台湾の有権者に影響を及ぼそうとしていると説明した。
呉外交部長は、今年世界では約40の重要な民主選挙があるとした上で、中国は台湾を実験場にしており、台湾での介入が成果を挙げたならば他の民主主義国に対しても同じ方法で影響を与えるだろうと予想。中国はそれによってルールに基づく国際秩序を改変し、中国に有利な国際環境を整えようとしているのだと指摘した。
いわゆる「疑美論」(米国懐疑論)について呉外交部長は、「中国は、『米国はウクライナを利用してロシアに対抗しているように、台湾を利用して中国に対抗している』とか、『TSMC(台湾積体電路製造)に米国での工場建設を要求し、その結果台湾経済は空洞化することになる』といったことを主張している。これによりロシア・ウクライナ戦争が始まってから国内で行われた世論調査では台湾人民の米国に対する信頼度が前年同期比で10ポイント下がった。これは非常に警戒すべきことだ」と述べた。
また呉外交部長は、中国は国連総会第2758号決議を曲解して現状を変えようとし、「台湾問題は中国の内政問題」と主張しているが、中華人民共和国が台湾を管轄したことは無いと反論。「台湾は4年ごとに民主的な手続きで自らの総統を選んでおり、これこそが台湾の人々が変化を求めない現状、国際社会から認められている現状だ」と強調した。
呉外交部長は、中国のインド太平洋地域における勢力拡大はすでに地域の平和と安定にとっての脅威になっており、このため米国及び理念の近い国々は台湾海峡での衝突がもたらす災難を真剣にとらえ、多国間対話や連携に積極的に取り組むようになっていると指摘。その例としてキャンプデービッドにおける米日韓首脳会談、そして米国とカナダ、オーストラリアなどがフィリピンとの安全保障面での協力関係を広げていることを挙げ、「いずれも第一列島線の国々との協力関係を強めるもので、インド太平洋地域での中国の拡張に共同で対応しようとしている」と解説した。
呉外交部長は、「ロシアのウクライナ侵攻によって民主主義国は、『権威主義国家は挑発を受けずとも隣国を攻撃することがある』と知った。民主主義陣営の国はみなウクライナの最終的な勝利のため協力し、権威主義国家に対し、『戦争を始めたならば間違いなく全世界の抵抗に遭う』とはっきり警告しなければならない」と強調した。
「ニューヨーク・タイムズ」は1851年創刊。米国で発行部数が2番目に多い新聞で、米国のリベラル派にとって最も重要な日刊紙である。近年はデジタル化に成功。オンライン版の契約アカウントは全世界に910万、ウェブサイトの利用者も1,000万人以上で、国際与論に大きな影響力を持つ。